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遺留分お役立ち情報(基礎知識)
遺留分とは、相続財産の中で、一定の相続人に留保される相続財産の一定割合のことをいい、被相続人の生前贈与や遺言によっても奪うことができません。
遺留分が侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使して侵害者から侵害額に相当する金銭を請求することができます。
侵害額の計算式は以下のとおりです。
遺留分を算定するための基礎となる財産のことを「基礎財産」といいます。この基礎財産は以下の計算式によって算定します。
以下、「被相続人が相続開始時に有していた財産」「贈与した財産」「相続債務」について具体的に解説していきます。
被相続人が相続開始時に有した積極(プラス)財産のことです。不動産や現金、預貯金などの債権、株式、動産などです。
(それ以外で含まれるもの)
遺贈や「相続させる」との内容の遺言の対象とされている財産も含まれます。遺贈とは法定相続人や第三者に対する財産の無償譲渡、「相続させる」との内容の遺言とは法定相続人に対する権利義務の包括承継のことです。
遺産分割における特別受益を検討する際、遺贈によって取得した財産は、すべて特別受益にあたります。ただ、基礎財産を考える上では、遺贈は、「被相続人が相続開始時に有していた財産」となります。死因贈与も遺贈と同様です。
「〇歳になったら毎月△円支給する」といった条件付権利や、「結婚したら□円与える」という存続期間の不確定な権利については、家庭裁判所によって選ばれた鑑定人が評価すれば算入されます。
(含まれないもの)
祭祀財産は他の相続財産とは別に承継者が決められるため、除外されます。
被相続自身を受取人としている場合を除き、原則として相続開始時の積極財産には含まれないと理解されています。
ただし、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人と の関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮」(最高裁判所平成16年10月29日判決)して、他の相続人との間で著しい不公平が生じる場合には、例外的に生命保険金も相続財産に含めて各相続人の相続分を決定します。
この基準のうち、保険金の額の遺産総額に占める割合がとくに重要です。過去の裁判例では、保険金額が遺産の5割を超える場合には特別受益として相続財産に含める傾向です。
死亡退職金については、まず、支給規定の有無や支給態様から被相続人あるいは遺族のいずれに向けられたものかを判断します。被相続人への賃金の後払いと判断されれば被相続人の財産、つまり遺産であり、他方、遺族に対する生活保障であると判断されれば遺族固有の財産であると言えます。
遺産であれば遺産分割の対象財産となります。これに対して、遺族固有の財産であれば、原則として遺留分算定の基礎財産には含まれません。しかし、これを受け取った者とそれ以外の相続人の間に大きな不公平が生じる場合は、特別受益として調整をする必要が生じます。その際の判断については、上記の生命保険金で示された最高裁判決の基準が用いられる傾向です。
遺族年金や死亡弔慰金は、受給した遺族固有の財産であり相続財産には含まれないと理解されています。したがって遺留分算定の基礎財産に含まれないのが原則です。
しかし、相続人間で著しい不公平が生じる場合には、生命保険金などの場合と同様、例外的に特別受益として基礎財産に算入されることもあります。
贈与した財産については贈与がなされた時期によって扱いが異なります。
被相続人が亡くなる日の1年間に贈与された財産については、受贈者が誰であるかにかかわらず、すべて基礎財産に算入されます。
たとえば令和3年1月1日(分かりやすくするため平日扱いとします)に被相続人が死亡した場合は、令和2年1月1日から死亡までに行われた贈与が対象です。
ここにいう「贈与」は贈与契約の締結だけで足り、財産の移転までされている必要はありません。逆に、1年を超える前に贈与契約が締結されていた場合には、財産の移転が1年以内に行われたとしても、基礎財産には含まれません。
なお、「私が死んだら〇〇に不動産を与える」というような、死亡を条件に効果が発生する死因贈与についても同様に扱われます。
相続が開始する日の1年間より前の贈与については、誰を相手とした贈与であるかによって区別されます。
相続人に対する贈与は、その贈与が①特別受益にあたり、なおかつ、②相続開始前の10年間になされた贈与、または③当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与」である場合には、基礎財産に算入されます。
①特別受益
特別受益とは、相続人が遺贈や贈与により被相続人から特別に受け取った利益のことです。この特別受益は、基礎財産に加算されることになります。
特別受益については、民法903条1項で「遺贈」「婚姻若しくは養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」と目的による制限があります。
(a)遺贈
遺贈によって取得した財産は、すべて特別受益にあたり基礎財産に含まれます。死因贈与も遺贈と同様、すべて特別受益にあたると考えられています。ただ、上記のとおり、基礎財産を検討する上では、遺贈は「被相続人が相続開始時に有していた財産」となります。
(b)婚姻若しくは養子縁組のための贈与
持参金や嫁入り道具など、結婚や養子縁組のために被相続人が負担した費用は特別受益にあたります。
ただし、ごく少額であった場合などは特別受益にあたらないとされることもあります。
(c)生計の資本としての贈与
居住用不動産の贈与やその取得のための費用の贈与、営業資金の贈与などが例です。
全相続人が生計の資本として同程度の贈与を受けていた場合は、相続人間の不均衡は生じておらず、特別受益とは認められないと考えられています。
②相続開始前の10年間になされた贈与(特別受益)
令和2年7月の民法改正前においては、相続人に対する贈与についての期間制限がなく、何十年も前に行われた贈与の対象財産が基礎財産に含まれていました。しかし、これでは関係者が長らく不安定に晒されるため、法改正により、相続人に対する贈与は相続開始前の10年間になされたものに限定されることになりました。
③当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与
この場合の贈与は改正前と同様、期間の制限はありません。
相続開始前1年間にされた贈与のみ基礎財産に加算されます。ただ、相続開始の1年よりも前に行われた贈与であっても、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与をしたときは、基礎財産に加算されます。
「不動産を贈与するので、その残りのローンを払って欲しい」など、受贈者も一定の対価を負担する負担付贈与の場合、目的物の価額から負担価額を控除した金額を基礎財産に加算します。
また、売買などの形をとってはいるものの、不相当な対価をもって有償行為がなされた場合には、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってしたものに限り、その対価を控除した金額が算入されます。
未払代金やローンなどの私法上の債務だけでなく、未納税などの公法上の債務も含まれます。
私法上の債務のうち、被相続人が負担していた保証債務については相続債務に含まれず、基礎財産から控除する必要がないのが原則です。
ただし、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を保証しなければならず、かつ、その履行による出捐を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないという特段の事由がある場合には、例外として相続債務に含まれて基礎財産から控除されます。
基礎財産の対象となる不動産、非上場株式については、どのように評価されるのでしょうか?
不動産については、取引価格(時価)によります。国土交通省が公表している「土地総合情報システム」を利用し、近隣又は同等の物件について実際の売買契約が成立した価格を調査することが可能です。
非上場株式については、国税庁が提供している財産評価基本通達の「取引相場のない株式等の評価」に基づいて評価することになります。
以上、基礎財産の計算について解説してきました。
遺留分や特別受益、財産評価をめぐって相続人間で意見の対立がある場合は、一度弁護士にご相談ください。