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遺留分お役立ち情報(基礎知識)
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遺留分侵害額請求は、法律上、遺留分権利者に認められた権利であり、遺留分を侵害する者はこれを拒むことはできません。しかし、拒めないからといって侵害者が自発的に支払ってくれるものでもありません。実際に侵害された遺留分を取り戻すには、請求権の実行に出る必要があります。
具体的にはまず、内容証明郵便で請求することから始めます。この段階では「遺留分侵害額を請求する」旨の意思表示で足り、訴訟を提起する必要はありません。
これに対して相手が応じない場合には、次に家庭裁判所に調停の申し立てを行います。調停手続きでは、裁判所が両当事者の意見や事情を聴き、解決に向けて助言や提案を示しつつ話し合いが進められていきます。調停によっても話し合いがまとまらなかった場合には、一旦、調停は不成立・終了します。その後、改めて訴訟を提起する手続きをとることになります。
なお、調停の申し立ては家庭裁判所、訴訟の提起は地方裁判所(140万円以下は簡易裁判所)に対して行います。
遺留分侵害額請求権について「調停を経て訴訟へ」という流れは法律で定められており(調停前置主義)、原則として訴訟を提起する前に調停の申し立てをしなければなりません。
ただし、侵害者側がまったく話に応じないような場合には、先に訴訟を提起しても調停には戻さずに審理されることもあります。
要件事実とは、法律上の効果が生じるのに必要な具体的事実をいいます。
たとえば、遺留分侵害額請求権(民法1046条1項)であれば「遺留分権利者及びその承継人」が「受遺者又は受贈者」に対して「遺留分侵害額に相当する金銭」の支払いを「請求する」ことを示す実際に生じた事実のことです。裁判所はこれらの具体的事実を一つ一つ拾うことで抽象的な法律上の効果を認定していきます。
訴訟提起をするにあたっては、遺留分侵害額請求者の側で、要件事実を提示しそれを裏付ける証拠を裁判所に提出しなければなりません。民事訴訟では、各当事者は自分に有利な法律上の効果を認められるには、その要件事実を主張立証しなければならないという責任を負っています(主張立証責任)。つまり、これらの主張立証ができなければ、自己に有利な法律上の効果を得られず、結果的に敗訴してしまう可能性があるのです。
裁判所としても、要件事実の主張立証がなされているかを中心に見定めていけばよく、効率よく合理的な裁判を実現できるという機能もあります。
遺留分侵害額請求権の具体的な要件事実は次のとおりです。
③④については戸(除)籍謄本等によって、⑥については内容証明郵便によって、比較的立証が容易です。
これに対して、①②⑤については立証が困難であることが多く、これらが立証活動の中心となります。
とくに⑤については、遺留分の算定の基礎となる財産額を明らかにして、問題となる遺贈や贈与が遺留分の侵害となることを主張しなければなりません。その際には、財産の評価方法や複雑な計算式、さらには過去の裁判例に従った細かなルールの理解が不可欠です。弁護士の関与なしでは遂行困難な訴訟の一つと言えるでしょう。
抗弁とは、わかりやすく言うと、被告が原告の申し立てや主張を妨げるために、原告の主張と両立する別個の事実を主張することです。
たとえば、原告が「貸したお金を返してほしい」と請求してきた場合に、被告が「確かにお金は借りた。しかし、すでに返済した」という主張です。
抗弁の事実については、抗弁を主張する者が立証責任を負います。つまり、抗弁の事実を立証できない場合には、自己に有利な法律の効果を得られないことになります。
ちなみに、被告が「そもそも借りていない」と原告の主張とは両立しない事実を主張することは否認にあたります。否認の対象となる事実は相手が立証責任を負っている点で、抗弁とは異なります。
原告の請求に対して、侵害者である被告による抗弁には以下のようなものがあります。
侵害者が被相続人の事業について労務の提供や財産の給付をした、あるいは、被相続人を療養するなどして被相続人の財産の維持または増加について特別の貢献をしたという「寄与分」を抗弁として主張して、請求を妨げることが考えられます。
しかし、寄与分は家庭裁判所の審判によってはじめて決定される権利であり、地方裁判所が管轄する遺留分侵害額請求訴訟の抗弁として主張することは、法技術的に困難です。したがって寄与分は抗弁として主張することはできません。
遺留分侵害額請求訴訟は多大な労力と時間がかかるうえに、個人が遂行するには非常にハードルの高い訴訟です。遺留分トラブルについては、訴訟はまさに最終手段と捉えてよいでしょう。できれば話し合いの段階から弁護士を入れて、訴訟に発展する前に解決することをおすすめします。