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遺留分お役立ち情報(基礎知識)
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被相続人の配偶者および子、そして直系尊属(父母、祖父母)は、被相続人の生前の贈与や遺言によっても奪うことができない遺留分を有しています。
被相続人の遺贈、生前の贈与によってこの遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は、遺留分を侵害した相手方に対し、遺留分侵害額請求権を行使します。
侵害額の計算式は以下のとおりです。
上記の計算式やルールに従って遺留分侵害額請求をしていくわけですが、共同相続人のうちの1人が遺留分侵害額請求を他の相続人に請求したところ、請求された相続人も遺留分侵害を受ける場合があります。そのような場合、どう処理すればよいのでしょうか?
具体的な事例に沿って解説します。
被相続人Aの遺産額は8000万円
Aには相続人として、子BCDEの4人がいる
AはBに5000万円、Cに2000万円、Dに1000万円をそれぞれ遺贈
なにももらえなかったEは遺留分侵害額請求をしたい
<Eの遺留分侵害額>
<BCDそれぞれに対する請求>
遺留分侵害となる行為はBCDそれぞれへの遺贈であることから、遺贈された財産の価格が基礎財産に占める割合に応じて各受遺者に請求するのが原則です。
Bに対して
Cに対して
Dに対して
<原則通りに請求した場合の不都合性>
上記計算式に基づいてEはまず、Dに対して125万円請求したとします。
Dは遺贈で受け取った1000万円から侵害額を支払うことになりますが、結果、手元には875万円しか残りません。つまり、Dも遺留分(1000万円)が侵害されている状態になります。そこで、Dは不足額125万円について改めて計算しBCにそれぞれに請求することになります。
しかし、このような処理は煩雑で、紛争を持ち回るような印象になってしまいます。
<民法1047条1項2号の「目的の価額」>
遺留分制度は不公平な相続の是正を目的としています。この目的は相続人間での侵害額請求する場面においても実現されなければなりません。そこで、共同相続人間で遺留分侵害額請求をする場合には、遺贈された財産価額のうち受遺者の遺留分額を超える金額についてのみが「目的の価額」(民法1047条1項2号)にあたると理解されています(最判平成10年2月26日)。
そこで事例1を見てみましょう。
・BCDの遺留分額は1000万円です。これを超える財産の遺贈を受けたのはBとCで、その遺留分額を超える金額、つまり「目的の価格」は
・Eは自己の遺留分侵害額1000万円について、BCに対して、それぞれの「目的の価格」の割合に応じて請求することになります。
以上により、事例1ではEはBに800万円、Cに200万円について遺留分侵害額請求することになります。
被相続人Aの遺産は2000万円
相続人として子BC2人がいる
Aは生前に4000万円を第三者Dに贈与しており、1年経過する前に死亡
AはBに2000万円を遺贈
なにももらっていないCは遺留分侵害額請求をしたい
<Cの遺留分侵害額>
<遺贈と贈与がなされた場合>
遺贈と贈与によって遺留分が侵害された場合、侵害額請求の対象となる順序は遺贈、次いで贈与です。したがってCはまずBに1500万円請求するとします。
請求されたBは遺贈された2000万円から支払うことになりますが、その結果手元には500万円しか残りません。つまり、Bも遺留分を侵害された状態になります。
そこで、BはDに遺留分侵害額請求するとなれば、やはり煩雑で迂遠な処理となってしまいます。
ここでも、共同相続人間の不公平を是正すべき要請が働きます。すなわち、時期を異にする複数の遺贈や贈与がなされた場合、遺留分侵害額請求された相続人の遺留分額を超える金額についてのみが遺留分減殺の対象となると考えられています。
これに従って事例2を見てみましょう。
Bの遺留分額は1500万円、遺贈額は2000万円であり、Bが得た遺留分を超える金額は
したがって、CはBに対して500万円を請求し、残り1000万円についてはDに請求することになります。
遺留分侵害額請求権が規定されている民法1047条を一度読んだだけで理解できる方はそう多くはないでしょう。判例による注釈があってはじめて理解できる条文の一つです。
確実にそして早期に遺留分侵害額請求をお考えの場合は、弁護士への相談が近道となるはずです。